こうして学者であるバラカート先生による「学者とは? 講座」が始まった。
「いいか? まず学者ってのは人に聞いてばっかりじゃダメだ。
人の意見を聞くのも大事だが、自分の意見を持つことはもっと大事だ。まずは自分の考えを言え」
「だーかーらー。前も言ったけど自分で考えたら果物食べ歩き学者にたどり着いたわけよ」
ヌールは元気よく答えた。
「……だから前も言ったがそれはただのグルメリポートだろうが」
バラカートは力なくため息をついた。
以前ヌールは生姜のリンゴ酢漬けなる料理を振舞ってくれた料理人の少女に
「果物食べ歩き学者」という響きからしてシアワセそうな職業を提案されたことがあった。
それは妙案だ! と思い、
もんもんと自分が世界の果物を食べ比べ、味をせっせと記録している妄想を広げていたのだが、
それを白の天幕にてバラカートに話したところ、グルメリポートと評されてしまったのである。
この時点でヌールには学者とは何なのかよくわからなくなってしまった。
そして今日のこの質問に至るわけである。
「そうだな。じゃあ例えばだ。さっき取り出したそれ。デーツについてどう思う?」
「甘くておいしい」
ヌールは元気よく答えた。
「……だからさっきも言ったがそれはただのグルメリポートだろうが」
バラカートは力なくため息をついた。
「まぁ百歩譲って甘くておいしいでいい。食べ比べてもいい。でもそれだけじゃだめだ。
その先を考えるのが学者だ。なぜ甘いんだ? 隣の町のと比べて甘さは違うのか?
違うならなぜ違うんだ? 天気か? 日光の加減か? 土の違いか?
それを調べるのが学者だ」
バラカートの力説にヌールは小首をかしげた。
「うーん、なんだかピンとこないけど、つまりおいしさの秘密まで探れってこと?」
「まぁ……ただの食べ歩きより一歩だけ学者に近づいたな」
「探ってどうするの?」
ヌールは反対側に小首をかしげた。
「そこから先は人による。新しい知識を得ること自体に満足しているやつもいるし、
それを売って金にしているやつもいる。あとはそれを応用して研究しているやつもいるな」
「応用?」
ヌールはさらに反対側に小首をかしげた。
「例えば、そのおいしさの秘密とやらがわかったとするだろ。
するとその秘密を応用してマズいものをおいしくする魔法の薬が出来るかもしれない」
「おぉ……!」
ヌールは目を輝かせた。
「ここのナツメヤシだってそうだ。
町の連中がせっせと世話してるのもあるんだろうが、いくらなんでも生えすぎだ。
ということはだ。この町にはナツメヤシを育てるのに適した“何か”があるはずだ。
その“何か”がわかればそれを応用して荒地でもナツメヤシを育てれるようになるかもしれない。
あとはたまに突然変異で異常に大きな実が出来ることがある。
ナツメヤシ大会とやらの賞品の特大ナツメヤシも多分それなんだろうが……。それを……」
それを解明して応用すれば、大きな果物が作れるわけね。
どうしようかしら。あたしの体と同じくらいの巨大リンゴが出来ちゃったりしたら。
あ、ナツメヤシみたいにわっさわっさ実るオレンジとかも作れちゃったりするのかしら。
あと、種がないブドウとかも作れちゃったりなんかして!
考えるだけで楽しいわ。
でも失敗したら大変よね。食人果実とかできたらどうしよう。
果物に食べられるなら本望……なわけないわよ! 果物は食べてこそよ!
考えるだけで恐ろしいわ。
恐怖の殺人焼きマンゴー……。
ひぃ! たーべーらーれーるー。
べちっ
「あうち、痛いじゃない!」
反射的に返事をして顔をあげると、バラカートが手に本を持って冷ややかな視線で睨んでいた。
「角じゃなかっただけマシだと思え。人がせっかく教えてやってるのに寝るな」
「寝てないわよ!」
「ヨダレたらしながら何を言ってるんだお前は……」
バラカートに指差され、ヌールは慌てて口元をぬぐった。
「あー! せっかく夢の中でいいアイディアを思いついてた気がするのに忘れちゃったわ」
「知るか。ていうかやっぱり寝てたんじゃねぇか。
どうせくだらないアイディアだろ。俺はそろそろ調査にでかけるぞ」
バラカートは本を小脇に抱えて立ち上がった。
「あ。あたしも野菜食べに行くー!」
ヌールも元気よく立ち上がった。
「……だから何度も言うがグルメリポートじゃねぇ。野菜食いに行くわけじゃねぇ」
「へへ、冗談よ冗談。調査よね調査。“もう”邪魔しないから。いいでしょ?」
ヌールはにっこりと笑い、バラカートは天を仰いだ。
「ああ、今日はまともな調査は無理だな……」
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