ナツメヤシの町。机のおいてある、ある天幕。
丁度昼休みの時間ということもあり、ほとんどの席は埋まっていた。
「お、空いてるラッキー! ねぇ、合い席しちゃってもいいかしら?」
合い席の相手の顔も形も返事も確認することなく、
青いポニーテールの見習い――ヌール・バースィル――は席に着き、机に突っ伏した。
「ふー。疲れたー」
そうヌールが無意識に発した一言に、
「ん? ……なんだヌールか」
なんと驚いたことに返事が返ってきた。
「なんだとは何よ! 何だとは!」
顔も形も確認することなく反射的に返事をして顔をあげると、
そこには見知った植物学者の青年――バラカート――がいた。
「あら、誰かと思えばバラカートさんじゃない。こんなところで何してるの?」
嬉しそうにヌールが伏したまま尋ねると、
嫌そうにバラカートは視線を本からヌールに移した。
「自分で考えろ。ていうか見ればわかるだろ。本を読んでいるんだ」
そう言ってバラカートは視線をヌールから本に移した。
……ヒマ。
「ねぇ、いつもこんなところで本読んでるの?」
嬉しそうにヌールが起き上がり尋ねると、
嫌そうにバラカートは視線を本からヌールに移した。
「俺の天幕は共同だしな。そもそも誰かのせいで散らかりすぎて
落ち着いて本読むスペースなんてねぇよ。外は眩しいし日影でも焼ける。
こういうところで落ち着いて本を読むのも悪くない」
そう言ってバラカートは視線をヌールから本に移した。
……ヒマ。
「ねぇ、ねぇ、何の本読んでるの?」
嬉しそうにヌールが身を乗り出して尋ねると、
嫌そうにバラカートは視線を本からヌールに移した。
「植物の本だ。ていうか人の話を聞け。俺は落ち着いて本を読みたいんだ」
そう言ってバラカートは視線をヌールから本に移した。
……ヒマ。
「ちゃんと聞いてるわよ。あ、そうそう。デーツあるんだけど食べる?」
嬉しそうにヌールが道具袋からデーツを取り出しながら尋ねると、
嫌そうにバラカートは視線を本からヌールに移した。
「なぁ。聞いてるだけでわかってねぇだろ……。デーツはいいから少し黙ってろ」
そう言ってバラカートは視線をヌールから本に移した。
……ヒマ。
「む。そうだ。聞いてるといえば、あたしバラカートさんに聞きたいことがあったんだわ」
嬉しそうにヌールが取り出したデーツをもぐもぐしながら胸の前でポンと手を叩くと、
嫌そうにバラカートは視線を本からヌールに移した。
「わかった。俺が悪かった。お前に会った時点で本を読むのを諦めるべきだった。
で、俺に聞きたいことってのは何だ」
「この前ちょっと話したんだけど……
“学者”って結局何なの?」
「……それか。自分で考えろ」
そう言ってバラカートは視線を本からヌールに移した。
「バラカートさんのいけずー!」
ヌールは膨れてみたが、バラカートは気にも留めず本を読み続けた。
……よし。
「いけずー、いけずー!」
嬉しそうにヌールが指差しながらはしゃぐと、
嫌そうにバラカートは視線を本からヌールに移した。
「公衆の面前ではしゃぐな。俺が恥ずかしいだろうが」
気がつけば周りの視線が二人に集まっている。
「……じゃあ、教えてくれる?」
ヌールはにやりと笑った
「仕方ないな……」
バラカートは今度こそ諦めて、しおりを挟んで本を閉じた。
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