もどる。  
 

【第0夜】:万国の門「お買いもの」(その2)

登場人物:ヌール・バースィル フェーン・スーアイ(氷堂さん)

 
「いらっちゃいましぇ!おちごと、おつかれたまでつ」
白の天幕。
世話を命ぜられているらしい二匹のルフ達に布きれと水を持ってきてもらい、
二人の少女はせっせとポンポンとヌールの服にベッタリついたトマト汁の染み抜きをしていた。
ポンポン。
「前見てなかったんだよ。ごめん。服……」
「大丈夫よ。服もトマトも赤いしあんまり目立たないわ。青臭いけど。それより果物が……」
ヌールは心の中で深く悲しくうなだれ号泣したが、
決して目の前の少女一人のせいではないことは自分が一番よく知っている。
「実はあたしも前見てなかったのよね。こっちこそごめんね。大丈夫だった?」
ヌールも謝り、損害賠償請求問題に発展することなく無事に和解すると、
黄色い衣服で身を包んだ毛先の紫がかった少女は改めて自己紹介を始めた。
「あたし、フェーン・スーアイ。こう見えても商人だよ。君は?」
「あたし、ヌール・バースィル。まだこれといった職はないわ。
 キャラバンに入ったらいろいろ学ぶつもりのひよっこ見習いよ」
するとフェーンは驚いたような嬉しいような顔をし、目をパチクリさせた。
「キャラバン!? あたしもキャラバンに参加するんだよ」
「そうなの!?」
今度はヌールが驚いたような嬉しいような顔をし、目をパチクリさせた。
話を聞くとどうやら同じ隊商のようである。同じ貼り紙をみたのだ。
「偶然ってあるものね。そうだ! じゃあ見習いのあたしに商人についていろいろ教えて!」

同じキャラバンに参加することがわかると、ぐっと距離が縮まった気がした。
もともとおしゃべりがお好きなお年頃の少女二人である。
傍から見たらさっきうっかりぶつかって知合ったばかりだとは思えない。
表情をころころかえながら、笑いながら
ポンポンして濡れた部分を乾かしながらすっかりおしゃべりを楽しんでいる。

「へぇ、書物を扱ってるのね。果物の本があったら是非あたしにちょうだい」
「え、お金はちゃんと払ってもらうよ」
フェーンは親指と人差し指を丸めて硬貨の形を作り、得意げに笑った。
そうこうしているうちに服もすっかり乾き、一見わからない程度にきれいになっていた。
くんくん……青臭いけど。
「さぁ、服もこれくらいでいいんじゃないかしら。ねぇ、せっかくだし一緒にお買い物しない?」
「いいよ。せっかくだし一緒にいろんなお店見て回ろうよ」
こうして二人は揃って立ち上がり、白の天幕をあとにした。
「ごりようありがとうございまちた。おしごとがんばってくだちゃいましぇ!」

まだまだ騒がしい昼下がり。
人ごみの中、青いポニーテールの少女が一人と大きな麻の籠を背負った少女が一人。
あまりにおしゃべりに夢中だったため、二人揃って前方に人がいることに気づかなかった。

ドンッッ! ドンッッ!

「あや……ッ! ご、ごめん!!」
「痛っ、ちょっとあなたどこ見て歩いているのよ!」

好奇心旺盛で元気な二人の買いものは、どうにもなかなか終わらない。
 

   もどる。