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ボクは一体何のために生まれてきたんだろう? 
 
「え、ウルさん本当に残しておいてくれたんですか?」 
ボクに意識が戻ったとき、目の前では男とも女ともとれる顔立ちのジンかジーニーが笑っていた。 
「ああ、肩凝り中の草の学者がわざわざお前にってよ」 
すぐ傍にウルさんと呼ばれた男がいた。待てよ、これはボクに仕打ちをした強面の男だ。 
男はにっと笑っている。 
次はボクをどうするつもりだ。 
こいつはボクをどうするつもりだ。 
「あ、バラカートさんもいたんですか。気にせず食べてくれてもよかったんですが…… 
せっかくなのでいただきますね」 
食べるだと!? まさか、まさか……! 
ちょっと待ってくれというボクの声は届かない。 
嗚呼、にっこり笑った男か女かよくわからない顔が、口が、歯が、舌がボクに近づいてくる。 
「あ、おいしいですね」 
こうしてボクは、なす術もなく食べられた。 
 
咀嚼され、ばらばらになっていく体と朦朧とする意識の中で考える。 
ボクは一体何のために生まれてきたんだろう? 
 
ああ、そうだ。そうだった。 
ボクは薄れゆく意識の中で、ようやく答えにたどり着いた。 
 
ある日の白の天幕。 
「あー! そういえば焼きマンゴー食べたの? 食べたの?」 
青いポニーテールの少女――ヌール・バースィル――は思い出したように、 
男か女かわからない顔立ちの医者――イヴォンカ――に尋ねた。 
先日、ヌールはイヴォンカの同居人ウルドバの天幕付近で突然始まった夜食会に参加し、 
草学者の青年バラカート、鳥獣使いの少女ライハーネフと共にいろいろご馳走になっていた。 
その際、大きな葉に包まれたおいしそうな焼きイモや焼きリンゴや焼きバナナに混じって、 
お世辞にもおいしそうとは言えないぐちゃぐちゃに潰れた焼きマンゴーがあったのだが、 
みんなで――主にウルドバとバラカートの間で――押し付けあった挙句、 
最終的には夜食会が始まる前に寝てしまったイヴォンカにあげるということになっていたのだ。 
というか提案したのはヌールだった。 
「あ、ハイ昨日もその話をしてたんですが……おいしくいただきましたよ」 
イヴォンカはにっこりと笑った。 
えー! アレおいしかったの!? だったらあたしが食べればよかったわ……。まぁでも、 
「あら、それはよかった。マンゴーちゃんもきっと喜んでるわ」 
ヌールもにっこりと笑っておいた。 
 
そうさ。ボクは喜んでる。 
どんなに酷い仕打ちを受けても最期にはわかったから。 
ボクが何のために生まれてきたかわかったから。 
笑顔でおいしいと言いながら食べてもらう。それが……、 
 
ボクの生き甲斐。 
或るマンゴーの独白。 
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