←   もどる。  
 

【第0夜】:移動中「ボクの生き甲斐〜或るモノの独白〜」(その1)

登場人物:或るモノ

 
ボクは一体何のために生まれてきたんだろう?

この世に生を受けた以上、遅かれ早かれ死を受け入れなければならないのは必然である。
人であれ、ジンであれ、ジーニーであれ、ルフであれ、何であれ。
しかし、こんな仕打ちがあってもいいのだろうか?
突然、強面の男に掴まれたかと思うと、何かに包まれ、視界を奪われ、
そして、どこかに放り投げられた。

恐怖。
こんなボクが言うのもおかしな話かもしれないが、恐怖には二つの種類があると思う。
ひとつは、眼前におぞましいもの、不可解なものが現れたときの恐怖。
もうひとつは、おぞましいもの、不可解なものを感じるのに眼前が闇に包まれている恐怖。
前者は事実を享受し、咀嚼し、無理にでも理解し、誤っていても答えを出すことができる。
自分を無理やり納得させることができる。
しかし、後者はそれをも許さない。見えない恐怖が最大限に膨れ上がってボクに襲ってくる。
こんな目に遭って初めてわかる。当然のように広がる目の前の光景にいかに依存していたことか。

そんな暗闇の中のボクを襲ったのは、熱だった。
何だか暖かい。いや、違う。
熱い。
何だこれは。ボクの実に一体何が起こっているんだ?
急にゴウゴウという音が聞こえた。バチバチという音が聞こえた。
熱い、熱い。
そうか、視界が奪われたせいで、聴覚が鋭くなってきたんだ。
ここで意外と冷静な自分に気がつく。
わかった。炎の中に投げ込まれたんだ。
そう認識すると、一気に温度が上がったような気がした。
錯覚か、それとも現実か。
いっそ夢ではないかとも思ったが、
包まれているので身動きがとれず、頬をつねることもできなかった。
もっともこの冷めることのない熱さ、夢ならとうに覚めてもいいはずである。
熱い、熱い、熱い。
自分の力では脱出することも叫ぶこともどうすることもできない。
皮が爛れる感覚。これは拷問か? それとも地獄か。
全身が熱に侵されていく。徐々に、徐々に。
全身が熱で爛れていく。徐々に、徐々に。
これも包まれているからだ。
そう考えると包むという行為は拷問に最適なのではなかろうか。
いっそ裸のまま炎の中に放り込まれたかった。
一瞬で消し炭になって、それで終わりでよかった。やはり地獄か。
気が遠くなってしまいそうだ。早く終わりにしてくれ。

もはや時間の感覚がない。どれくらい灼熱の地獄に晒されただろう。
何かに掴まれる衝撃と共に、急に視界が明るくなった。
真っ暗だった世界が急に真っ白になった。
徐々に鮮明になっていく風景。
もうそこは炎の中ではなかった
そこにはボクをこんな目に遭わせた強面の男がいた。さらに青年が一人と少女が二人。
皆が皆、残念そうな顔でボクを見つめている。
皆が皆、穢れたものを見るような目でボクを見つめている。
ふと、自分の体を確かめた。
嗚呼、ボクの体は、原形を留めないほどに崩れているではないか。
見るな。そんな目で見るな。見るな見るな見るな。
そして、ボクは気を失った。

ボクは一体何のために生まれてきたんだろう?
 


←   もどる。