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ボクは一体何のために生まれてきたんだろう? 
 
この世に生を受けた以上、遅かれ早かれ死を受け入れなければならないのは必然である。 
人であれ、ジンであれ、ジーニーであれ、ルフであれ、何であれ。 
しかし、こんな仕打ちがあってもいいのだろうか? 
突然、強面の男に掴まれたかと思うと、何かに包まれ、視界を奪われ、 
そして、どこかに放り投げられた。 
 
恐怖。 
こんなボクが言うのもおかしな話かもしれないが、恐怖には二つの種類があると思う。 
ひとつは、眼前におぞましいもの、不可解なものが現れたときの恐怖。 
もうひとつは、おぞましいもの、不可解なものを感じるのに眼前が闇に包まれている恐怖。 
前者は事実を享受し、咀嚼し、無理にでも理解し、誤っていても答えを出すことができる。 
自分を無理やり納得させることができる。 
しかし、後者はそれをも許さない。見えない恐怖が最大限に膨れ上がってボクに襲ってくる。 
こんな目に遭って初めてわかる。当然のように広がる目の前の光景にいかに依存していたことか。 
 
そんな暗闇の中のボクを襲ったのは、熱だった。 
何だか暖かい。いや、違う。 
熱い。 
何だこれは。ボクの実に一体何が起こっているんだ? 
急にゴウゴウという音が聞こえた。バチバチという音が聞こえた。 
熱い、熱い。 
そうか、視界が奪われたせいで、聴覚が鋭くなってきたんだ。 
ここで意外と冷静な自分に気がつく。 
わかった。炎の中に投げ込まれたんだ。 
そう認識すると、一気に温度が上がったような気がした。 
錯覚か、それとも現実か。 
いっそ夢ではないかとも思ったが、 
包まれているので身動きがとれず、頬をつねることもできなかった。 
もっともこの冷めることのない熱さ、夢ならとうに覚めてもいいはずである。 
熱い、熱い、熱い。 
自分の力では脱出することも叫ぶこともどうすることもできない。 
皮が爛れる感覚。これは拷問か? それとも地獄か。 
全身が熱に侵されていく。徐々に、徐々に。 
全身が熱で爛れていく。徐々に、徐々に。 
これも包まれているからだ。 
そう考えると包むという行為は拷問に最適なのではなかろうか。 
いっそ裸のまま炎の中に放り込まれたかった。 
一瞬で消し炭になって、それで終わりでよかった。やはり地獄か。 
気が遠くなってしまいそうだ。早く終わりにしてくれ。 
 
もはや時間の感覚がない。どれくらい灼熱の地獄に晒されただろう。 
何かに掴まれる衝撃と共に、急に視界が明るくなった。 
真っ暗だった世界が急に真っ白になった。 
徐々に鮮明になっていく風景。 
もうそこは炎の中ではなかった 
そこにはボクをこんな目に遭わせた強面の男がいた。さらに青年が一人と少女が二人。 
皆が皆、残念そうな顔でボクを見つめている。 
皆が皆、穢れたものを見るような目でボクを見つめている。 
ふと、自分の体を確かめた。 
嗚呼、ボクの体は、原形を留めないほどに崩れているではないか。 
見るな。そんな目で見るな。見るな見るな見るな。 
そして、ボクは気を失った。 
 
ボクは一体何のために生まれてきたんだろう? 
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