「え……何コレ?」
「酒のつまみ……か?」
正直な感想である。ヌールとアルハーは生姜のリンゴ酢漬けなるものを覗き込んだ。
初めて見る料理である。料理、料理……料理?
「ねぇ、これスフラが調べて作ったの? それとも単なる思いつき?」
「サーミルさんに教えてもらったの。すっごくおいしいらしいよ! ……だめ?」
だめ? ……て言われても。
スフラの健気な目で見つめられてはダメなものもダメとは言えない。
でも“らしい”って何かしらね……。
「ねぇ、スフラは食べたの?」
「味見はしたよ。でもちょっとすっぱくて……」
そう言ってスフラは少し困った顔をした。
味見するまでもなく、“私すっぱいんです!”と言わんばかりのニオイを放っている。
「あれだ、たぶんスフラにはまだ大人の味がわかんねえんだな。ここは大人の俺が食ってやるよ」
そういって童顔で大人に見えない大人のアルハーが手を伸ばし、先陣を切った。
ポリポリポリ。
「お」
アルハー、驚きの表情。
「本当に酒にあうんじゃないかこれ?」
どうやら気に入ったらしく、さらに次に手を出そうとしたのでヌールも慌てて手を伸ばした。
「あ、あたしも食べてみるわ」
手にとってそれをしばし眺めてみる。
一見ただの生姜ね。くんくん……うーん、くさい。でも何事も経験よね。
ヌールは未知の食べ物を恐れない。
ポリポリポリ。
う……。おお……? おお……!
「ちょっとニオいキツいけど……意外といけるかもこれ」
ポリポリポリ。
「しかもあれだ、酢に漬けてあるから長旅にももってこいだなこれは」
ポリポリポリ。
「んー、クセになっちゃうかも。スフラ残念ね。これが食べれないなんて」
俗に言う“好きな人にはたまらない”といわれる部類の食べ物なのだ。
「しょうがねえよな。こ・ど・もだから」
そう言ってアルハーは、にたっと笑いスフラを見た。
「う……。子供じゃないもん。あたしも食べる」
恐る恐る手を伸ばす。
ポリポリポリ。
「うぅ……すっぱい」
スフラは全力で目を閉じ、全力で口をすぼめた。
「ねぇ、そういえばだけどリンゴそのものは入ってないのこれ?」
生姜は探さなくても見つかるが、リンゴの姿が見当たらない。
「あ、うん。搾り汁を使っただけで入ってないの」
「がびーん! じゃあこれリンゴの料理のようでリンゴの料理じゃないじゃない」
「まあまあ、そんな泣きそうな顔して怒るなって。スフラ、こいつを剥いてくれないか」
そう言ってアルハーは先にヌールに投げられたリンゴをスフラに渡した。
きっとまた綺麗に可愛いうさぎの形に剥いてくれることだろう。
「そういえばスフラに借りたカップを……って、あー! スフラのカップ持ってくるの忘れた!」
「あーじゃねえ。おデコぺし! さっきまで返す気まんまんだったじゃねえか」
「あうち! 痛いじゃない! うっかり置いてきちゃったのよ。ちゃんと洗ったんだからね」
「あはははは。また今度でいいよ」
おつまみとデザートのみで始まった天幕の宴。
メインディッシュはみんなの笑顔。
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