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【第0夜】:万国の門「助けてください2」(その3)

登場人物:ヌール・バースィル ガラスパ(汁。)さん

 
今日も活気溢れる市場、の路地裏。
胡散臭い怖そうな男が店主と思われる男に捕まっていた。
あの人かしら?
ヌールは近くに積んであった樽の影に隠れてこっそり会話を盗み聞いた。
「さぁ、少女を攫うヒマがあったら盗った果物なり硬貨なりをだすんだ!」
「我輩ではないと何度言ったらわかるのだ! 我輩がなぜか持っていた果物は全部返した。
我輩が持っていたはずの財布はなぜかない。攫いたいときもあるが攫ってもないですぞ!」
あぁ、罪状的に絶対あの人だ。
さて、どうしたものか。
パパに全然似てないけど……やるしかないか。

「あ、パパこんなところにいたー!」
ヌールが元気よく飛び出すと店主は驚いた表情をしながらヌールに顔を向けた。
当のガラスパはといえば店主以上に驚いている。飛び出しそうな目がさらに点である。
「パ、パ、パパパパパパパパパ、パパー!? 我輩は少女のような小娘に見覚えは――」
あら? 見た目ほど怖い人じゃなさそうね。
ガラスパがしゃべり終わる前にヌールは続ける。
「どうしたの? 捕まっちゃって動転して娘の顔も忘れちゃったの?
あたしの顔はどうでもいいけどコレを家に忘れちゃダメじゃない」
そういってヌールは子供から回収した財布をちらちらちらつかせた。
「そ、それは我輩の――」
ガラスパがしゃべり終わる前にヌールは続ける。
「お兄さん、硬貨払うからお願い! あたしのパパ返して!」
涙ながらの訴えである。もちろんウソ泣きなのは言うまでもない。
硬貨が支払われるなら店主としても文句はない。それに少女を泣かせるのも後味が悪い。
かくしてあっさりと捕まったガラスパはあっさりと解放されたのである。
あとはしぶしぶ硬貨を支払ってめでたしめでたし。

……かと思いきや、ヌールは店主を睨みつけた。そして
「それにしても酷いお店ね。財布を忘れただけの善良な民を路地裏に連れ込むだなんて」
から始まり、
「お兄さん、あたし話がわかる人好きよ」
で終わる交渉の末、足りなかった果物代をタダ同然にまで値切ってしまったのである。
ヌールはガラスパの目を見ながら満足気にニッコリと笑った。

帰路。
「ウヒョーッ、ヒョッ、ヒョッ。いやぁ助かりましたぞ」
「そうよね。助かったうえに財布までほぼ無傷で戻ってきたんだから……」
「ウヒョッ?」
「あたしにご褒美の果物買って。ねぇ? パパ」
「ウヒョーーーーッ!!!??」
ヌールはガラスパの目を見ながら満足気にニヤリと笑った。

胡散臭い男が一人と少女が一人。
傍から見たら人攫いに見えなくもないことに、二人はまだ、気づいていない。
 

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